日本の干潟はかつて全国の沿岸域のいたるところに存在し、人々の暮らしと密接なつながりを持っていました。 しかし、その多くは埋め立てられ、商工業施設、道路、農地、住宅地、海浜公園などにとって変わられてしまいました。
干潟は遠浅で埋立て易い場所であったこと、泥が溜まった汚いところというイメージがあったこと、そして何より干潟の生態的な価値が見捨てられていたことがその理由と考えられます。

衰退する干潟 ~都市近郊の貴重な自然干潟・江奈湾干潟の保全~

1945年に82,621haあった全国の干潟は、埋立てや護岸工事により、1996年には49,380haと、およそ50年で40%を消失し、大きく衰退しました。(環境省基礎調査)
とりわけ大都市近郊の干潟消失は著しく、大阪湾ではほぼ100%消失し、東京湾でも盤洲や三番瀬(千葉県)などわずかな干潟が残されただけです。
干潟の消失は干潟に生息する生物の消滅を意味するものであり、生物多様性の観点からも現存干潟の保全は喫緊の課題です。

神奈川県三浦市に位置する江奈湾干潟は、後背地にヨシ群落を持つ自然干潟で、都市近郊に残されたかけがえのない自然干潟です。
この貴重な生態系を保全するため、OWSは2012年からプロジェクトを立ち上げ、活動を開始しました。

OWSの取り組み

このプロジェクトは、NPOが核となって地元住民、研究者、学校、行政、漁協などの団体、企業等多様な主体が連携し、干潟生態系と生物多様性の保全を図ろうというものです。



具体的には ごみ回収や雑草刈りなどの保全活動(活動1)、 毎年春から初夏の間に行う干潟生物調査(活動2)、年間を通して行う自然観察会やホームページなどを通じて行う普及啓発活動(活動3) の3つを継続的、複合的に実施するものです。


保全活動
「ごみ回収活動」


調査活動
「干潟生物調査」


普及啓発活動
「観察会」


こうした活動を通じて、干潟の生態的な役割と保全の必要性を広く普及啓発し、保全に向けた流れを作ろうという取り組みです。


江奈湾干潟での3つの課題


1.投棄ごみ問題


県道からの投棄ごみが絶えない

江奈湾や毘沙門湾に面した三浦海岸から三崎までを結ぶ県道215号線は、夜間の交通量や通行する人も少ないため、ごみの違法投棄が後を絶ちません。

投棄ごみには、電化製品や自転車、タイヤ、ベッドなどあらゆるものが見つかっていますが、懸念されるものは、土壌消毒剤ジクロロプロペンなど劇物指定の農薬缶や車のオイル缶、注射針などの医療廃棄物などです。

残念なことにビニールハウスの廃棄物や飼料袋など地元の農業由来と思われるものもあり、農協などの関連団体との情報共有が必要です。

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2.畑地の表土の流出と緑化


畑から流出する表土

三浦半島南部は、丘陵一面に広がる農地を利用した畑作が盛んで、キャベツ、ダイコン、スイカ、カボチャ、メロンなどの産地として知られています。三浦市の農地面積は1200haで総面積の37%を超え、622haの山林に比べて大きな割合を占めています。

降雨により、畑から流出する表土は、涵養する森が少ないため、用水路や道路を流れ直接海に流入します。江奈湾では、干潟の数十メートル手前に沈砂池が設置されているものの、まとまった降雨時にはまったく機能していません。
今後、表土流出が干潟生態系にどのような影響をもたらしているのか調べていく必要があるでしょう。また、上流の一部に残された森の保全や畑地周辺の緑化なども課題と考えられます。


3.採集圧


無用な採集は控えましょう!

毎年実施している干潟生物調査では、多くの希少生物が確認されており、保全すべき生態系であることが実証されています。
しかし、残念なことに、無用な生き物採取やかご網によるカニ採取(漁業用)も後を絶ちません。
江奈湾干潟は、面積が狭く生物群集サイズも限られたたいへんデリケートな生態系です。こうした場所では、少しの採集圧でも大きなダメージとなる場合があります。保全へのご協力をお願いします。