ゆかし潟干潟について

ゆかし潟・森浦湾を望む(撮影:田原敬治)

ゆかし潟・湾奥を望む(撮影:田原敬治)
ゆかし潟の位置
ゆかし潟は、紀伊半島の南東、那智勝浦町と太地町に面した森浦湾の湾奥に形成された周囲2.2㎞ほどの小さな潟湖(せきこ)です。水深は最も深い場所でも4.6mほど、海岸と潟は、浅くて狭い水道でつながっているため、潮の干満によって海水が流入出する汽水湖です。
ゆかし潟の特徴
ゆかし潟には、主に三つの川が流れ込んでおり、上げ潮時には森浦湾から水道を経て海水が流入します。海岸から離れているゆかし潟は波の影響を受けないうえ、周辺に湧き出る10本ほどの温泉水の流入によって表層の水温は高く、淡水と海水の分離層がつくられます。その結果、塩分濃度の高い下の層の海水の動きは少なく、湖底にたまった泥の影響で湖面が独特な色あいになっています。
残された希少植物群落
ゆかし潟は、東岸に沿った国道や護岸など一部人口化はあるものの、ウバメガシなどの魚付き林とハマボウやヨシなどの植物群落が残されています。また、潮が引いた時間に現れる干潟にはナガミノオニシバ、フクド、ハマサジなどの塩生植物群も見られます。
それらの植物群落は、ハマガニ、アシハラガニ、チゴガニなどの感潮域を好むカニ類やアカテガニ、ベンケイガニ、クロベンケイガニなどの半陸生ガニ類の生息場所となっており、ゆかし潟の豊かな多様性を保つ役割を担っています。
多彩な水中の生き物たち
水道周辺にはカキ礁がよく発達し、近年急増したマクガイも潟内でパッチ状に礁を形成しています。また、潟内には、分布はわずかながらも海草のコアマモとウミヒルモ群落が残されています。これらの礁や藻場は多様な生き物の生息場所となっており、和歌山県立自然博物館による調査では、130種を超える魚類が確認されています。OWSの潜水調査では、造礁サンゴのキクメイシモドキも確認しました。
ゆかし潟の干潟
ゆかし潟の干潟は、潮が引いた時に水道の両岸と二河川の河口付近、橋ノ川と湯川地区の河口にあらわれます。干潟の底質は礫質(れきしつ)と泥質に分かれ、砂質干潟はありません。淡水と海水の複雑な交わりや温泉の流れ込みによる水温変化などが独特な環境をもたらし、確認された底生生物種は、62種を超える希少種を含め210種以上におよびます。
ゆかし潟の変化と保全に向けて
ゆかし潟の貴重な生態系がもたらす豊かな多様性は、近年の調査で明らかになりました。しかし、一方で、潟の南側水道に広がっていた0.27haほどのヨシ原は2016年を境に消滅し、周辺の海浜植物も目に見えて減少しています。また、二河川河口域では水害対策のため浚渫が行われ塩性植物群落が消失しました。こうした変化がゆかし潟の生態系にどのような影響をもたらすのか、注視していく必要があります。
環境変化
ゆかし潟周辺においても、海水温上昇などの環境変化は激しく、これまで生息が確認されていなかった生き物の急増などさまざまな変化が起きています。これまでOWSの調査で確認した多くの希少種は、ごく限られた範囲にのみ生息しており、小さな環境変化にもたいへん脆弱です。ゆかし潟の豊かな自然を未来に残すために、これからも多くの目で見守っていく必要があります。