第16回報告 オキノタユウの繁殖状況

第124回(2018年3〜5月期)鳥島オキノタユウ調査報告
688羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数はついに5000羽に到達!

■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)

 2018年3月25日から5月5日まで鳥島に滞在し、オキノタユウ(学名Phoebastria albatrus, 別名アホウドリ)のひなの調査を行ないました。その結果の概要を報告します。

1. 2017-18年繁殖期の巣立ちひな数

 2017年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し(第15回報告参照)、今回、4月下旬にひなに足環標識を装着して巣立ちひな数を確定しました(下表)。

【表】2017-18年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率
区域
産卵数
ひな数
昨年比
繁殖成功率
昨年比
従来コロニー 燕崎斜面
538
390
+83
72.5%
+15.2
新コロニー 燕崎崖上
42
31
+11
73.8%
−0.3
北西斜面
341
267
+61
78.3%
+3.1
鳥島全体
921
688
+155
74.7%
+11.0

 燕崎斜面の従来コロニーから、昨シーズンより83羽も多い390羽のひなが巣立ち、その結果、この区域での繁殖成功率(巣立ちひな数÷産卵数、%)は72.5%で、昨シーズンと較べて15.2ポイントの上昇でした。北西斜面の新コロニーからは、昨シーズンより61羽も多い267羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は78.3%で、3.1ポイントの上昇でした。燕崎崖上の新コロニーからは、11羽多い31羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は昨シーズンと同程度の73.8%でした。

▲写真1:燕崎斜面の従来コロニー西地区(2018年4月1日)
 手前は泥流が流れた跡


▲写真2:北西斜面の新コロニー(2018年3月26日)


▲写真3:燕崎崖上の平坦な場所にある新コロニー(2018年4月23日)

 結局、鳥島全体での巣立ちひな数は、昨シーズンより大幅に(155羽)増えて、688羽でした。全体での繁殖成功率は、昨シーズンより11.0ポイントも上昇して、74.7%でした。これは過去39年(1979〜2017年)の最高記録です。

 昨年、繁殖期の前に燕崎斜面で大規模な泥流が発生して従来コロニーの西地区営巣地の一部に流れ込み、浸食によってそこに浅い溝が形成されました。この泥流浸食の繁殖成功率への影響が懸念されましたが(第15回報告参照)、浸食を受けた区域の面積が比較的狭かったため、大きな影響を受けずにすみました。また、今冬、ラニーニャ現象が発生して、その影響も心配されました。しかし、どの営巣区域でも繁殖成功率は非常に高く(72.5〜78.3%)、結局、オキノタユウの繁殖への影響は、ほとんどなかったと考えられます。

 これら688羽の巣立ち幼鳥と、若鳥(1〜6歳)の推定個体数約2221羽、成鳥(7歳以上)推定約2256羽を合計した鳥島集団の総個体数は約5165羽となりました。最近、鳥島のオキノタユウ集団は非常に順調に個体数を回復し、以前の予想よりもやや早く5000羽に到達しました。ついに、ぼくの個人的目標である“総個体数5000羽、繁殖つがい数1000組”の一つが達成されました。

▲写真4:つがい(2018年3月28日)


▲写真5:ひなへの給餌(2018年4月28日)

 

2. 来シーズン以降の予想

 オキノタユウは毎年1回、一腹1卵を産むので、産卵数は繁殖つがい数と一致します。最近10年間、鳥島集団の繁殖つがい数は平均して毎年 9.1%ずつ増加してきました(最近5年間にかぎると、平均増加率は毎年11.3%)。また、繁殖つがい数の3〜4年先の増加の指標となる、抱卵期(11〜12月)のカウント数は、最近8年間、平均して毎年10.1%ずつ増加してきました。したがって、来シーズンに繁殖つがい数は、昨シーズンの921組から約10%増加して、約1010組になると十分に予想されます。次回の調査で(2018 年11-12月)、繁殖つがい数が1000組に到達したことを確認できるでしょう。そのとき、ぼくの個人的目標が完全に達成されることになります。

 さらに、これまでの集団統計資料にもとづいて将来を展望してみましょう。1979年以降の38年間、鳥島集団は年率7.7%で指数関数的に成長してきました。これは、言い換えると9.3年で集団の個体数が倍加することを示します。とくに最近10年間をみれば、倍加期間は7.9年となります。この10年間の繁殖成功率は平均で68.7%に維持されましたが、その前の10年間の繁殖成功率は平均で65.3%でした。オキノタユウの繁殖開始年齢は平均で約7歳なので、繁殖成功率の成否は7年後の繁殖つがい数に反映されます。このことから、今後の倍加期間は少し短縮され、9年程度になると推測されます。

 鳥島の北西側にはオキノタユウの営巣に適したなだらかな斜面が広がっていて、彼らが営巣コロニーを拡大するスペースは十分に残っています。すなわち、鳥島集団は個体数の増加にともなう負の影響(こみ合いにともなう相互干渉によって繁殖成功率が低下し、集団の成長率が下がる)を受ける可能性はほとんどなく、少なくとも今後20年間は指数関数的に成長するはずです。したがって、繁殖つがい数は9年後の2027年に約2000組、2030年代半ば過ぎには約4000組になり、総個体数は2026年に約10000羽、2030年代半ば過ぎに約20000羽になると予測されます。また、鳥島のコロニーでは2026年に約2500羽、2030年代半ばには約5000羽が見られるようになるでしょう。

 調査研究を開始した当時、鳥島集団の総個体数は200羽未満と推測されましたが、それから41年経過して、ようやく5000羽まで回復しました。しかし、これからは9年間で5000羽増え、その次の9年間でさらに10000羽増える見込みです。鳥島のオキノタユウ集団はもはや絶滅の危機からは完全に脱却し、復活・再生への確かな道を歩み始めています。

▲写真6:着陸態勢に入った成鳥(2018年4月9日)


▲写真7:離陸するための助走を開始した成鳥(2018年4月1日)

長谷川博
OWS会長
東邦大学名誉教授
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