第15回報告 オキノタユウの繁殖状況

第123回(2017年11-12月期)鳥島オキノタユウ調査報告
燕崎斜面で大泥流が発生。しかし、921組のつがいが産卵し、鳥島集団は順調に成長


■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)

 2017年11月14日から12月15日まで、伊豆諸島鳥島でオキノタユウの産卵状況を調査しました(鳥島滞在は11月26日から12月9日までの14日間)。その結果の概要を報告します。

燕崎斜面で大規模な泥流が発生

 従来コロニーがある燕崎斜面では、最近、泥流が発生しました。2016年10月には、泥流によって斜面中央の排水路に土砂が堆積し(写真1)、従来コロニー東地区の一部は堆積した土砂より低くなった結果、離着陸に不便になったばかりでなく、泥流が流入する危険性が増し、さらに強風や突風が砂塵を吹きとばして親鳥の抱卵行動に影響を及ばす可能性が高まりました。

 また、2017年の秋に発生した大きな泥流(1987年以来の規模)、鳥島の頂上部から多量の土砂を燕崎斜面に押し流し、従来コロニー西地区の辺縁部にも流入して、営巣場所を浸食しました(写真2)。これらの泥流によって、従来コロニーの営巣環境は劣化したと推測されます。

▲写真1:2016年秋の燕崎斜面従来コロニー(2016年11月19日)
中央排水路に沿って流れ下り、東地区の旧区域(写真の左上)の辺縁部に堆積した


▲写真2:2017年秋の従来コロニー(2017年11月29日)
西地区(写真の右側)の辺縁部を流れ下り、営巣地の約2割に当たる面積を浸食した

 

産卵状況

 鳥島の3区域のコロニーで産卵状況を調査し、個体数をカウントしました。その結果の概要を下表にまとめました。

【表】2017年11月の産卵状況。繁殖つがい数とカウント数を示す。調査日数は、北西斜面で8日、燕崎斜面、燕崎崖上、鳥島全体では5日でした。

 
従来コロニー
新コロニー
鳥島全体
燕崎斜面
燕崎崖上
北西斜面
繁殖つがい数(組)
538
42
341
921
前年比
+2
+15
+67
+84
増加率
+0.4%
+55.6%
+24.5%
+10.0%
カウント数(羽) 平均
814.0
84.8
554.6
1455.2
前年比
+45.9
+31.1
+76.6
+121.0
増加率
+1.5%
+57.9%
+16.0%
+9.1%

 鳥島全体の繁殖つがい数は少なくとも921組で、昨シーズンより84組、10%も増加しました。

 鳥島には3区域にコロニーがあります。そのうち、燕崎斜面の従来コロニーでは538組が産卵しました。昨シーズンからはわずか2組、0.4%の増加でした。

 2016年に発生した泥流の影響で、東地区のうち営巣に適さなくなった旧区域では繁殖つがい数が昨シーズンより26組も減少し、一方、泥流の影響を受けなかった上側の新区域では20組増えて、全体では6組の減少でした。また、西地区のうち、2017年の大泥流に浸食された区域では、つがい数は昨シーズンの46組から今シーズンは44組となり、2組減少しました。しかし、影響をうけなかった区域でつがい数が10組増えて、結局、西地区では8組の増加になりました。 

 この従来コロニーは飽和状態に近づいていると推測され、繁殖つがい数は今後もわずかな増加にとどまるでしょう。

 一方、泥流のおそれのない、安全で広い北西斜面に、デコイと音声を利用して形成した新コロニー(写真3)では341組が産卵しました。昨シーズンより67組、約24%の増加です。このコロニーは、2004年に4組のつがいが産卵して確立してからわずか13年間で、つがい数は4組から341組に急成長を遂げ、鳥島集団全体の4割近くを占めるまでになりました。その理由は、従来コロニーから巣立った若い個体が、混雑した従来コロニーを避けて、この新コロニーに移入しているからです。したがって、この新コロニーはこれからも急速に成長するはずです。

 また、燕崎崖上の新コロニーでは42組が産卵し、昨シーズンより15組、約56%も増加しました。この区域の大部分は火山砂におおわれた裸地で、ごく一部にハチジョウススキやイソギク、ラセイタソウが生育し、オキノタユウは主に草丈の高いハチジョウススキの草むらの中やその側で営巣しています(写真4)。この崖上の新コロニーは、2004年に2組が産卵して自然に形成されましたが、2012年までの8年間、繁殖つがい数は10組未満でした。しかし、2013年に10組台に乗り、2016年から繁殖つがい数が急速に増加し始めました。この原因は、1)ハチジョウススキの生育がよくなり、比較的好適な営巣場所が供給されたこと、2)10組以上が繁殖するようになった結果、営巣コロニーの誘引効果が高まったこと、3)燕崎斜面の従来コロニーで営巣していた個体が、泥流によって劣化した営巣場所を放棄して、斜面のすぐ上にある崖上コロニーに移動してきたこと、などでしょう。

▲写真3:北西斜面の新コロニー(2017年11月28日)
この平らな場所で、親鳥は周囲から土や枯れ草を寄せ集めて、マウンド状になった丈夫な巣を造っている


▲写真4:燕崎崖上の新コロニー(2017年11月29日)
疎らに生育しているハチジョウススキの草むらで営巣している

 鳥島全体でカウントされた個体数は、平均1455.2羽で、昨シーズンより121.0羽、9.1%増加しました。また、カウント数の最大は1524羽で、昨年より128羽、9.2%の増加でした。それぞれの区域でカウントした個体数は、燕崎斜面で平均814.2羽(昨年から45.9羽、1.5%の増加)、北西斜面554.6羽(76.6羽、16%の増加)、燕崎崖上では84.8羽(31.1羽、57.9%の増加)で、繁殖つがい数の増加傾向とほぼ同じでした。

 

今後の予測

 大規模な泥流が発生して従来コロニーの一部に流れ込んだため、従来コロニーでは繁殖つがい数がほとんど増加しなかったものの、北西斜面と燕崎崖上の新コロニーで大幅に増加したため、鳥島全体でのつがい数は、昨シーズンに予想した905組よりもやや多い921組でした。

 繁殖つがい数の増加率は最近5年間の平均をとると年率約10%でした。オキノタユウの繁殖開始年齢は平均して約7歳で、この5年間に繁殖集団に加わった個体の大部分は、2006年から2010年に生まれました。その当時、従来コロニーの保全管理工事によって好適な営巣場所が維持され、繁殖成功率は平均約70%とかなり高く保たれました(1993〜2004年に環境省が砂防と植栽を軸とする保全管理工事を実施し、引き続いて2005〜2009年に、小笠原諸島聟島列島に再導入するひなを十分に確保するため、長谷川がその補完作業を行なった)。その結果、たくさんのひなが巣立ち、多数の若鳥が生き残って繁殖地にもどり(カウント数の増加率も2009年以降の8年間の平均で約10%)、繁殖を開始して、最近のつがい数の急増となったのです。

 それ以降4年間も、繁殖成功率はそれ以前とほぼ同等の約69%に保たれたので、繁殖つがい数は引き続き年率約10%で増加するにはずで、来シーズンには約1010組が産卵するでしょう。

 また、今シーズンの繁殖成功率が最近2年間の平均の63%程度だとすれば、2018年5月に約580羽のひなが巣立ち、それらの幼鳥を含めた鳥島集団の総個体数は推定で約5055羽になるでしょう。

 したがって、来年中に、ぼくが個人的な目標にしてきた「繁殖つがい数1000組、総個体数5000羽」に到達することは確実です。1976年11月の最初の調査から42年後の2018年11月、ついにぼくの夢が実現します!

▲写真5:北西斜面の新コロニーで卵を抱く成鳥(2017年12月9日)


▲写真6:北西斜面の新コロニーで求愛ダンスをする若鳥(2017年12月9日)

 

長谷川博
OWS会長
東邦大学名誉教授
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